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腰椎圧迫骨折で適切な認定が取りにくい原因|専門家が押さえる医学的争点

腰椎圧迫骨折は画像で椎体の異常を捉えやすく、一見すると後遺障害の立証が容易な傷病に見えます。しかし実務では、「骨折が存在すること」と「その骨折が本件事故によるものか」「後遺障害として残存しているか」「どの等級系列で評価されるか」はまったく別の論点です。

 

自賠責保険の損害調査は書面主義に基づいて行われるため、単に「画像がある」だけでは足りません。X線やCTでは新旧骨折の判別が困難なケースも多く、MRIの有無・撮影時期、症状固定時における変形の評価手法によって結論が大きく左右されます。

 

受任事案で「画像があるのに認定されない」と感じる場合、原因は法的主張の不足ではなく「医学的立証の設計が論点ごとに整理されていないこと」にあるケースが少なくありません。

 

本記事では、法律専門家向けに腰椎圧迫骨折の後遺障害区分を整理し、非該当の原因分析と申請前・異議申立てにおける補強策を解説します。

 

 

腰椎圧迫骨折で問題となる後遺障害の区分

脊柱の変形障害

自賠責後遺障害等級表上、脊柱の変形障害は第6級5号(著しい変形)および第11級7号(変形)が規定されています。

 

一方、厚生労働省の労災認定基準では「中程度の変形」が第8級相当として定められており、損害保険料率算出機構(GIROJ)もこの基準を準用して認定を行います。

 

ここで実務上重要なのは、「変形障害としての8級相当」と「運動障害としての第8級2号」がまったく別物という点です。

 

GIROJは、自賠責の等級表に直接定めのない後遺障害についても、各等級に「相当」するものとして認定する運用を行っています。脊柱の中程度変形は、この「相当」の枠(労災基準の準用)で扱われます。

  • 8級相当:変形障害(椎体高の圧潰や後弯・側弯など、形状の変化が対象)
  • 8級2号:運動障害(可動域制限+それを裏付ける器質的変化が対象)

したがって「脊柱の変形があるから8級2号で申請する」という整理は制度上ずれています。変形障害として主張するのか、運動障害として主張するのかを初期段階で明確に切り分けることが、認定を勝ち取るための第一歩です。

脊柱の運動障害

第8級2号は「脊柱に運動障害を残すもの」です。認定には、頸部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の2分の1以下に制限され、その原因として圧迫骨折、脊椎固定術、あるいは項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化が画像等で確認できる必要があります。

 

単に「疼痛により動かせない」という状態は運動障害ではなく、神経症状(12級または14級)として評価されます。可動域測定値のみを前面に出しても、それを裏付ける器質的変化の立証が弱ければ8級2号の認定は困難です。

 

この点は、腰椎圧迫骨折事案で運動障害を主張するときの落とし穴です。可動域の測定値だけを前面に出しても、器質的根拠が弱ければ、8級2号ではなく12級13号または14級9号の神経症状評価に吸収されやすくなります。

 

実務上は、可動域制限の数値そのものより、その数値を説明できる器質的変化があるかが出発点です。

荷重機能障害

荷重機能障害は自賠責の等級表に独立した号として並んでいるわけではありません。厚労省認定基準では、原因が明らかで常に硬性補装具を要するものについて、次のとおり準ずる運動障害として扱うとされています。

  • 第6級:頸部および腰部の両方の保持に困難を生じるもの
  • 第8級:頸部または腰部いずれか一方の保持に困難を生じるもの

原因として想定されるのは、脊椎圧迫骨折・脱臼、脊柱支持筋の麻痺、または項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化で、いずれも画像等で確認できることが必要です。

 

頻度は高くありませんが、脊柱の保持機能そのものに問題がある重い事案では変形障害でも運動障害でもなく、荷重機能障害として準用評価を検討する余地があります。

疼痛・神経症状

自賠責の等級表では、第12級13号が「局部に頑固な神経症状を残すもの」、第14級9号が「局部に神経症状を残すもの」です。腰椎圧迫骨折後の腰痛やしびれは、この系列で評価されることが多く、前記のとおり器質的根拠に乏しい可動域制限も最終的にはこちらに整理されます。

 

腰椎圧迫骨折の後遺障害は、実務上は変形障害・運動障害・荷重機能障害・神経症状のどの系列で評価されるのかを最初に決め、系列ごとに立証対象を変える必要があります。

 

参考:厚生労働省せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害等級認定基準の一部改正について

関連記事:むちうち後遺障害14級の金額相場は?示談交渉と意見書活用のポイント

「認定されない」をどう分解するか

腰椎圧迫骨折で「認定されない」と言うとき、実際には少なくとも三つの類型があります。

 

ここを区別しないまま「非該当」の一言で処理すると、異議申立てで何を補うべきかが見えなくなります。

 

類型①:因果関係が認められない

圧迫骨折そのもの、または事故との因果関係が認められない類型です。

 

GIROJは、損害調査の中で事故と傷害等の因果関係も調査対象に含めており、圧迫骨折があってもそれが本件事故による新規骨折なのか、既存病変や別原因によるものなのかが問題になります。

類型②:残存変形が確認できない

骨折自体は認められても、後遺障害としての残存変形が確認できない類型です。

 

厚労省基準上、第11級の変形障害は「圧迫骨折等を残しており、そのことがX線写真等で確認できるもの」などが対象であり、単に受傷時に骨折があったというだけでは足りません。後遺障害として評価されるのは治療後にもなお残っている変形や固定の状態です。

類型③:上位等級の要件を満たさない

変形は認められるが、想定していた上位等級の要件を満たさない類型です。

 

厚労省基準では、著しい変形、中程度の変形、変形の三層があり、著しい変形と中程度の変形では前方椎体高減少の基準や、後弯・側弯の扱いが異なります。そのため「11級7号までは認められるが8級相当には届かない」「8級相当の主張だったが、実際は11級7号どまり」という事案が生じます。

参考:損害保険料算出機構当機構で行う損害調査

腰椎圧迫骨折が認定されない医学的原因

新鮮骨折と陳旧性骨折の切り分けが不十分

腰椎圧迫骨折で最も典型的な争点は、本件で問題となっている椎体変形が新鮮骨折なのか、既存の陳旧性骨折なのかという点です。

 

日本脊髄外科学会は、レントゲンやCTでは新しい骨折か古い骨折かを区別することが難しく、新しい骨折でも変形が少ない場合には診断が難しい一方、MRIは新しい骨折と古い骨折の区別をつけやすいと説明しています。

 

日本骨代謝学会系の椎体骨折評価基準でも、不顕性骨折は主にMRIや骨シンチグラムで診断され、新鮮骨折と陳旧性骨折の区別は治療上重要な概念として整理されています。

 

さらに、日本整形外科学会は、骨粗鬆症により脆弱性が存在する場合にも椎体骨折が生じること、外力によってもくさび状の前方圧潰が起こることを示しています。

 

つまり、実務で争点になるのは「骨粗鬆症か外傷か」という単純な二者択一ではなく、骨脆弱性を背景に持つ被害者であっても、本件事故で新たな骨折や変形進行が起きたといえるかです。ここを誤って「骨粗鬆症があるから事故無関係」と短絡すると、医学的にも法的にも整理が粗くなります。

事故前画像・受傷直後画像・その後の画像が揃っていない

既存骨折か新規骨折かを切り分けるうえでは、単発の画像だけでは不十分なことがあります。

 

日本の脊椎関連レビューでは、形態骨折を既存骨折と新規骨折に分け、新規骨折は「2つの時点の画像で椎体変形が進行」しているものと整理しています。

 

また、前向き多施設研究では、急性期の椎体骨折は受傷後2週間以内のX線で有意な圧潰を示さないことが多く、急性期には変形が軽微でX線だけでは診断が難しいと報告されています。

 

このため、受傷直後に単純X線しかなく、MRIもなく、その後の経時画像もない事案では、新鮮性・進行性・残存性の三つを同時に説明できないことがあります。

  • 事故前画像があれば、既存変形の有無を比較できる
  • 受傷直後MRIがあれば、新鮮性の裏づけになる
  • その後のX線やCTがあれば、圧潰進行や最終的な残存変形を示せる

逆にこの時系列が抜けると、因果関係の争点と等級要件の争点が同時に不利になります。

撮影条件や計測方法が認定対象に対応していない

厚労省基準は、脊柱の後弯については「減少した前方椎体高と後方椎体高の高さを比較」して判定し、側弯についてはコブ法による側弯度で判定すると明示しています。

 

つまり、等級認定で問われるのは、単に「角度を測ったか」ではなく、どの変形を、どの基準に沿って測ったかです。ここを取り違えて、臨床上の局所後弯角や一般的なCobb角だけを持ち込むと、認定基準との対応関係が弱くなります。

 

しかも、脊椎外傷の画像評価では、椎体高減少やkyphotic angleの測定法に国際的なばらつきがあり、どの手法を使うかでデータが変わり得ることが報告されています。別研究でも、VBHLの評価法は複数あり、単純な圧迫率は別の指標より椎体高低下を過小評価し得るとされています。

 

したがって、境界事案で重要なのは、計測したことそのものではなく、認定基準に整合する方法で、再現可能に計測したかです。

後遺障害診断書と画像・診療経過が整合していない

自賠責の損害調査は、まず保険会社から送付された請求書類に基づいて行われます。必要に応じて医療機関照会などがされることはありますが、スタート地点はあくまで提出資料です。

 

したがって、画像上の骨折高位と診断書上の症状部位、治療経過、可動域、神経学的所見がずれていると、症状の存在そのものより、症状と画像のつながりが説明できないというかたちで不利になります。

 

とくに運動障害では、厚労省基準が「単に疼痛のために運動障害を残すもの」は神経症状として認定するとしているため、診断書に可動域制限だけが並び、画像や器質的所見が弱い事案は、8級2号の主張としては脆弱です。神経症状でも同様で、画像・診療録・症状経過の整合性が弱いままでは、12級13号に届かず14級9号、あるいは非該当にとどまる理由になります。

疼痛や可動域制限の器質的根拠が示されていない

腰椎圧迫骨折後の残存疼痛は、それ自体として実在していても、後遺障害認定では器質的裏づけが重視されます。厚労省基準は、荷重機能障害や運動障害の評価においても、圧迫骨折、固定術、麻痺、軟部組織の明らかな器質的変化など、原因が画像等で確認できることを求めています。

 

レントゲン・CT・MRIなどの医療画像や適切な医学的検査が存在しない状況では、客観的かつ説得力のある意見書の作成は困難です。

 

要するに、症状の強さではなく、症状を支える客観資料の密度が認定の成否を左右します。ここを外して「痛みが続いているのに認められない」と考えると、申請でも異議申立てで補強の方向が定まりません。

参考:一般社団法人 日本脊髄外科学会病名を知りたい「脊椎圧迫骨折」

参考:公益財団法人 日本整形外科学会症状・病気を調べる「脊椎椎体骨折」

関連記事:後遺障害の慰謝料を増額するために必要な証拠と実務上の注意点

申請前と異議申立てで組む立証設計

申請前に固めるべき設計

申請前の設計で最も重要なのは、時系列の整理です。現実には、事故前画像がない事案も多いですが、少なくとも次の3点を整理しなければ、新鮮性、因果関係、残存変形の三論点を同時に扱えません。

  • 受傷直後のX線・CT・MRIの有無
  • その後の比較画像の有無
  • 症状固定前後の画像がどう並ぶか

日本脊髄外科学会、日本整形外科学会、椎体骨折評価基準、前向き研究はいずれも、急性期X線だけでは見逃しや評価不足が起こり得ること、MRIや経時比較が有用であることを示しています。

 

次に必要なのは、主張する障害区分と提出証拠の一致です。

 

変形障害を主張するなら、前方椎体高と後方椎体高の比較、後弯・側弯の評価が認定基準に沿って示されているかが中心になります。運動障害なら、可動域制限の数値に加え、その原因となる圧迫骨折や固定術、器質的変化が示されていなければなりません。神経症状なら、局在・持続・診療録・画像・神経学的所見の整合が必要です。

 

同じ腰椎圧迫骨折でも、どの系列で請求するかで必要書類は変わるということです。そのうえで、診断書提出前には、画像と症状の矛盾点を洗う作業が不可欠です。

  • 骨折高位と疼痛部位は合っているか
  • 可動域制限の程度は器質的変化と釣り合っているか
  • 初診時所見と後遺障害診断書の内容は連続しているか

自賠責の調査が提出資料ベースで進む以上、この内部整合を甘く見ると、後から意見書を足しても立て直しにくくなります。

異議申立てで補うべき設計

異議申立てでは、まず非該当理由や下位認定理由を、医学的争点に翻訳する必要があります。「認定されなかった」では抽象的すぎます。

 

争点は、圧迫骨折の新鮮性なのか、事故との因果関係なのか、症状固定後の残存変形なのか、計測方法なのか、可動域制限の器質的根拠なのか、症状と画像の整合なのか。この翻訳ができないと、何を追加しても審査側の疑問に届きません。

 

GIROJのFAQは、異議申立てに際して「異議申立の主旨」等を記載し、主張を裏付ける新たな資料があれば添付するとしています。つまり、異議申立ては制度上も「新しい医証で争点を補う」手続です。したがって、初回と同一の資料を、理由づけだけ変えて再提出するだけでは、医学的争点が解消されない限り結果は動きにくいと考えるべきです。

 

実務上は、次のような点を見極めます。

  • 既提出画像の再計測で足りるのか
  • 追加MRIや比較X線が必要か
  • 診療録の読込みで足りるのか
  • 可動域や神経学的所見の再評価が必要か

異議申立て事案は、外部専門家が関与する審査会の対象にもなり得るため、主張の密度よりも、新たな医証が争点に正面から刺さっているかが重要です。

参考:国土交通省支払いに疑問、不服がある場合には

医師意見書が有効な事案と限界

医師意見書が最も有効に働くのは、法的主張の不足ではなく、医学的評価の整理不足がボトルネックになっている事案です。

 

典型的には、新鮮骨折か陳旧性骨折か、骨脆弱性を背景に持つ症例で事故起点の増悪や新規骨折が説明できるか、計測値が認定基準に整合しているか、画像所見と残存症状の関係をどう説明するか、といった局面です。法的主張だけでは審査機関を説得しきれず、医学的な論証が必要になる場面といえます。

 

交通事故意見書では、整形外科・脳神経外科・放射線科の医師が事案に応じて関与し、争点に応じて適切な診療科を選定します。既存変性・骨粗鬆症との鑑別が争点の事案でも、外傷性を医学的に説明できるかが分かれ目です。意見書が、こうした医学的争点に専門的根拠を与える役割を果たします。

 

他方で、医師意見書には明確な限界があります。意見書作成前に事前調査を行っているのは、依頼者が思い描く内容の意見書を必ず作成できるわけではないためです。

 

レントゲン・CT・MRIなどの客観的証拠が存在しない状況では、説得力のある意見書作成は困難です。つまり意見書は、存在する資料を医学的に再構成する武器ではあっても、存在しない急性期MRIや欠落した診療経過そのものを作り出す道具ではありません。

 

この意味で、意見書のベストな使い方は二つあります。ひとつは申請前に、どの系列で立証するかを定め、必要画像や計測方法を事前に整えること。もうひとつは異議申立て前に、初回判断で足りなかった医学的説明を、追加資料と一体で再設計することです。意見書を入れるべきタイミングを誤ると、医学的に十分戦える事案でも、証拠の取り方が後手に回ります。

YKRメディカルコンサルトへの相談

当社では、弁護士向けに医学相談、交通事故意見書の作成、画像評価などのサービスを提供しています。交通事故意見書は、裁判所などの公的機関へ提出する資料として、事案の内容に応じて整形外科医・脳神経外科医・放射線科医が担当します。

 

また、意見書作成前の事前調査にも対応しており、争点を整理したうえで意見書作成へ進めることが可能です。

 

腰椎圧迫骨折では、因果関係や画像計測、残存変形、症状との整合性などが争点となることがあります。

 

非該当となる可能性がある事案や、異議申立てに向けてどのような医学的根拠を補強すべきか判断に迷う事案では、事前に医学相談をご利用いただくことで、争点を整理したうえで今後の対応方針をご検討いただけます。

 

 

 

まとめ

腰椎圧迫骨折で後遺障害が認定されない背景には、因果関係の否定、画像所見や計測値のばらつき、後遺障害診断書の記載不備といった医学的な要因が積み重なっています。多くは法的主張の不足ではなく、医学的立証の設計が論点ごとに整理されていないことに起因します。

 

受任事案でまず行うべきは、事故前後の画像を時系列で並べ、主張する障害区分に応じて必要な証拠を整理し、診断書・画像・診療経過の矛盾を潰すことです。それでも因果関係や計測、症状整合に不安が残る場合は、医師意見書によって争点を医学的に再構成することを検討してみましょう。

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